一木けいさんの『全部ゆるせたらいいのに』の感想です。
あらすじ
その頃見る夢は、いつも決まっていた。誰かに追いかけられる夢。もう終わりだ。自分の叫び声で目が覚める。私は安心が欲しいだけ。なのに夫は酔わずにいられない。父親の行動は破滅的。けれど、いつも愛していた。どうしたら信じ合って生きていくことが出来るのだろう――。痛みを直視して人間を描き、強く心に突き刺さる圧倒的引力の傑作!
感想
うわあ……。待って、めっちゃ既視感……。
ただえさえ重いテーマで、始終痛みが横たわっている本。作品内ほどひどくなかったけど、私も親に対して「全部ゆるせたらいいのに」って思うので、とてもきつかったです。
どんなにひどい親でも、完全に嫌いにはなれない。そばにいたら「またひどいことされるんじゃないか」という恐怖が襲う。
でも離れてみれば、「もしものことがあったら……」という恐怖に襲われる。
それに、家族なのにそばにいてやらないのは、ひどいんじゃないのか、と思ってしまう。自分が許せなくなってしまう。
「こんなやつ知らない!」と簡単に切り離すことができれば、楽なんですけどね。
だから最後に、この言葉がでてきたとき、救われた気持ちになりました。
手放すことと愛することは、矛盾しない。
『全部ゆるせたらいいのに』本文より
いい言葉です。
許すために、愛するために、離れなくてはいけないこともある。
親だけでなく、自分自身を許すためにも。
結局千映は自信を許せておらず、このタイトルは自分への祈りも含まれているのでしょう。
この作品は、ただ、毒親から離れられてよかったねー、で済まされる小説ではありません。
父親が千映視点だと、完全にアル中の暴力男に見えてしまうんですけど、彼も完全に悪いとは言えないのがまた……。
もともと繊細で学者肌だったのに、親の意向と家庭を守るためにストレスばかりの営業職に勤める。
ストレスでアルコールに手を伸ばして、気づけば依存症に……。アルコール依存症って恐ろしいです。どんなに根が悪くない人の人格でも、簡単に壊してしまうんですから。
そして、守りたかった人との関係も。
母親の視点で、「私たち三人なら、きっとうまくやっていける」と締めくくられていたのが、とんだ皮肉になってしまったんですね。
夫である宇太郎も、出会った頃は純真無垢なボーイという感じで、二人とも出会いから結婚してしばらくの期間が幸せそうでした。
しかし、仕事でストレス抱えてアルコール依存になってしまうのがもうなんともつらい。せっかく手にした安寧の地なのに、また崩れてしまうのか……と。
「あの頃のあなたに会いたい」とお互いが言ったり思ったりするシーンがやりきれない。
こちらは改心していたので、本当に「三人でうまくやっていける」家庭に、娘や千映が安心できるような家庭になってほしいと願うばかりです。
価格:1485円 |
コメント